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法人間で金銭消費貸借を行う場合に問題となるのは債権の回収です。貸主からすれば、貸した金員を期日までに回収することが重要となるからです。そのため、事前に金銭消費貸借契約書を作成し、返済時期、返済方法、返済が遅れた場合やできなくなったときの対処方法について詳細に決めておく必要があります。
ここでは、企業間の金銭消費貸借契約書の作成にあたって注意するべき点について解説します。
金銭消費貸借契約書とは、金銭の貸主と借主との間で結ばれる約束事について定めた書面のことです。
金銭消費貸借契約書を取り交わすことで貸主、借主はともに契約書に記載された条項を守る義務を負うこととなります。たとえば、借主は決められた期日までに借りた金員を返さなければなりません。一方で貸主も決められた期日までは貸した金員の返済を求めることはできなくなるのです。
また、借主が返済をすることができなくなった場合には、契約書に記載された方法で債権の回収を図ることができます。さらに執行認諾文のついた公正証書による金銭消費貸借契約書を作成することで、裁判手続きを踏まずとも債権回収を行うこともできるのです。
なお、金銭消費貸借契約書がなくても契約は有効に成立する場合があります。金銭を貸した後で「○月○日までに返す」とする約束がそれにあたります。このような口約束でも契約は成立しますが、返済期限や返済方法、さらには万が一返済できなくなったときにはどうするのか、といった点が明確ではありません。口約束なので、証拠となるものが残らず後々禍根を残すこととなります。
金銭貸借を行うのであれば、金銭消費貸借契約書の作成は必須と考えてよいでしょう。
法人間の金銭消費貸借契約書に記載するべき事項は次のとおりです。
法人間での金銭消費貸借契約を結ぶ場合には適正な利息をつけなければなりません。利息とは金銭を貸す行為に対する対価と考えられています。収益と言い換えることもできるでしょう。企業は営利を目的とするため、金銭貸借によって得られた利息は法人税の課税対象となります。無利息であったり極端に低い利息を定めた場合には、適正な利息との差額が法人税の課税対象となってしまうのです。
注意するべきは、利息には利息制限法による上限が決められており、それを超えた部分は無効となる点です。超えた部分については不当利得とされて返還しなければなりません。
利息制限法に定める利息の上限は貸した金額によって異なり、次のとおりとなっています。
金 額 | 利息の上限 |
---|---|
10万円未満 | 年20% |
10万円~100万円未満 | 年18% |
100万円以上 | 年15% |
金銭消費貸借契約書を作成した後、金銭の授受を行う前に当事者のいずれかのほうから契約を解除することは可能です。
たとえば、資金需要がなくなったときでも借り入れを強制するのは借り手側企業にとって酷な結果となります。
そのため、民法では587条2項で、金銭の授受が行われる前であれば契約の解除を行うことができると定めています。
資金需要がなくなるなど、当事者の状況に変化が起きて金銭消費貸借契約の必要がなくなったときには契約を解除することができるのです。
しかし、そのことによって相手側に損害が生じたときには、契約を解除した側の企業はその損害を賠償しなければなりません。たとえば、資金調達のコストなどがそれにあたるとされています。
そこで金銭消費貸借契約書には、契約書の作成後、実際に金銭の授受が行われる前に契約を解除した場合の対応について記載する必要があります。たとえば、契約を解除する場合には実際の損害額を支払う、もしくは支払わない。または損害が生じた場合に支払う金額をあらかじめ双方で決めておく、などといったことなどが考えられます。
また、当事者の一方が破産した場合には、契約自体が無効となります。(民法587条3項)ただし、破産手続き以外の民事再生や会社更生などの手続きが発生した場合については民法には規定がありません。そのため、金銭消費貸借契約書の中で解除できる条項としてこれらの事由が発生したとき、と規定しておくことが必要です。
なお、借り手側企業の信用力に不安がある場合には、金銭消費貸借契約書中に借り手側企業の財務状況に不安がないことを示す資料(決算書など)の提出や、差押え、仮差押え、滞納処分といった事由が発生していないことの保証や表明を義務付ける条項を挿入することを検討するのがよいでしょう。
遅延損害金とは、返済が遅れた時に発生する損害金のことです。この条項は金銭消費貸借契約書に記載しなければならないわけではありません。
しかし、利息と違い、金銭消費貸借契約書に記載がなくても、借主は貸主から遅延損害金の請求を受けた場合には、支払う必要があります。いわば、金銭消費貸借契約上、当然に発生するものなのです。
遅延損害金の利息については、契約書に定めがない場合には民法に規定された法定利息年3%が適用されます。なお、この法定利息は3年ごとに見直しがされます。そのため、契約書に利息を定めていない場合には、3年ごとに見直される利息が適用されることとなります。
ただし、適用されるのは実際に遅延による損害が生じた時点での利息です。仮に、遅延損害金を支払っている最中に3年ごとの見直し時期が到来したとしても、損害が生じた時点での利息が変わることはありません。
法定利息は3年ごとに変わる変動制のため、遅延損害金の利息はそれに応じて変動します。そのため、遅延損害金の利息を定めない場合には、利息の変動について注意する必要があります。
しかし、あらかじめ遅延損害金の利息を定めておけば、利息の変動に左右されることはありません。契約時に定めた利息が、3年ごとの見直しに関わりなく適用されるからです。
ただし、契約書に記載する場合には利息制限法が規定する次の利息を超えることはできません。
金 額 | 利息の上限 |
---|---|
10万円未満 | 年29,2% |
10万円~100万円未満 | 年26,28% |
100万円以上 | 年21,9% |
期限の利益喪失条項とは、借主が支払いを怠ったり、破産したりした場合などに、貸主から借主に対して残った債務のすべてを一括して返済するように求めることができる条項のことです。
借主の側からいえば、期限の利益とは、返済期限が来るまで借主は借りたお金を返さなくてもよいという意味です。
たとえば、返済日が毎月の月末として決まっていれば、毎月の月末までは、お金を返す必要がありません。
しかし、支払いを怠ったり、破産したりなどで返済ができない場合には、期限の利益が喪失し、借主は残金を一括して返済しなければならなくなります。
期限の利益が喪失するのは主に次の場合です。
貸主からすると、返済を担保するために必要な条項ということができます。
注意しなければならないのは、期限の利益喪失条項が契約書に記載されていない場合には、貸主は借主に対して残金の一括請求を行なうことができないことです。
たとえば、50万円を貸していて、毎月5万円ずつ返済するといった契約があるとします。その返済がストップしたときに期限の利益喪失条項が契約書に記載されていなければ、貸主は残金の一括請求はできず、毎月の返済額(5万円)の請求ができるだけとなります。
法人が行う貸付の場合、貸金の一括請求ができなければ、債券回収に支障をきたすこととなるので注意が必要です。
債権回収の実効性を高めるために用いられるのが、貸し付けた金額に見合った担保を設定することです。担保には人的担保と物的担保とがあります。
ここではそれぞれの担保について解説します。
人的担保とは、債務の保障を債務者以外の者の資産で担保するものです。簡単にいえば保証人をたてることで、債務を保証することをいいます。通常、連帯保証人をたてることが行われています。
連帯保証人とは、お金を借りた人が返済できない場合に、その人に代わって借りた金額を返済する義務をもつ人のことです。連帯保証人には催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益といった債権者に対抗する手段がありません。債務の弁済期限が到来すれば、債権者からいつでも貸金の返済を求められる可能性があり、それを断ることができないこととなっています。そのため、連帯保証人になることで生活が破綻する例が多くみられました。
そこで、法人間の金銭貸借のように事業用資金を目的とする場合には、金銭消費貸借契約書の他に「保証意思宣明証書」の作成が義務付けられています。「保証意思宣明証書」は金銭消費貸借契約書作成日の1ヵ月前までに公証役場で作成する書類です。連帯保証人になるリスクを公証人が説明したうえで、当該人の意思を確認して作成します。
「保証意思宣明証書」が作成されなければ、金銭消費貸借契約書は効力をもちません。
物的担保は特定の資産や権利を借り入れた金銭の担保として設定するものです。個人の資産に依存した人的担保とは違って、資産や権利の価値は安定しているので、担保価値は高くなります。債権回収の手段として多く利用されています。
物的担保にはいくつか種類がありますが、ここでは次の2つについて解説します。
抵当権とは金銭の借主が所有する不動産に設定される担保のことです。借主は不動産を自由に使用できますが、返済ができなくなった場合には不動産を売却して得た金員を貸主に弁済する義務を負います。貸主は抵当権を設定した不動産の売却益につき、他の債権者に優先して返済をしてもらうことができます。
借主は抵当権の目的となる不動産を所有しながら資金を借り入れることができ、貸主は万が一の場合にはその不動産の売却益のなかから優先的に弁済を受けることができるのです。
このように抵当権は貸主、借主双方にとってメリットがあるためよく利用されている制度です。
債権譲渡とは借主である法人が自分の顧客に対して有する債権(売掛金)を担保として金銭の借入を行う仕組みのことです。貸主は借主の債権(売掛金)を担保とすることで債権の回収可能性を高めることができます。たとえば、借主が売掛金を回収するのを待つ必要がないので、その分債権の回収がスムーズに行える可能性があるのです。
ただし、借主の債務者(売掛金を支払う側)にすれば、突然知らない相手から売掛金の支払いを請求されても困惑してしまいます。そこで、債権譲渡を行う場合には、譲渡人(借主:売掛金の所有者)から借主の債務者に対する通知、もしくは借主の債務者による承諾のいずれかが必要とされました。この要件を満たさない場合には債権譲渡の効力は生じないこととなっています。
なお、債権譲渡の注意点として、対象となる債権の状況と借主の債務者の返済能力を知る必要があることがあげられます。対象の債権の金額が売掛金の額に見合ったものであるのか、また、借主の債務者の返済能力に問題はないのか、といったことを事前に調査する必要があるのです。
これらの点が明確になっていないと、実際の債権の回収がうまくいかなくなる可能性があるからです。
個人、法人を問わず、金銭消費貸借契約には時効があります。債権者が金銭の返還を請求できることを知った日から5年間、もしくは10年間のいずれか早い時期に時効となるのです。
貸したお金を返す期限を債権者が知っていれば5年間、忘れていたとしても10年間経てばその金銭消費貸借契約は時効となり無効となる、とご理解下さい。
会社のような営利を目的とする法人については商事時効といって時効の期間は5年間とされてきました。しかし、民法の改正後、商事時効は廃止され、個人法人ともに上記の期間に統一されたのです。
ただし、時効は黙っていても適用されません。時効によって金銭消費貸借契約を無効にするためには債務者側が時効になったことを主張する必要があるのです。
この主張を時効の援用といいます。内容証明書によって債権者に通知するのが一般的です。
なお、時効の進行はリセットすることができます。債権者が裁判上の強制執行手続きを行なうか、もしくは、債務者のほうで貸金の一部を返済したときなどです。
金銭消費貸借契約書は印紙税法上の課税文書の一つであり、印紙税が課税されます。具体的には作成した契約書に印紙税額が記載された収入印紙を貼り、消印をすることで納税を行ったとみなされるのです。
課税額は貸し借りをする金銭の額によって異なります。たとえば、100万円を貸した時の課税額は1,000円です。ただし、貸した金額が1万円以下の場合には印紙税の課税対象とはならず、その金額で作成した金銭消費貸借契約書に収入印紙を貼る必要はありません。
収入印紙を貼るのは当事者双方が署名押印した契約書になります。法人契約では貸主借主双方が1通ずつもつので、両方に収入印紙を貼ることが必要です。
印紙代はどちらが負担してもかまいません。しかし、法人契約の場合、自社分の契約書に貼る収入印紙代を負担することが多いようです。
なお、収入印紙を貼らなかった契約書であっても法的には有効となります。しかし、印紙税は税金なので、契約書の有効無効に関係なく納付しなければなりません。もし、納付しなかった場合には納付金額の3倍にあたる過怠税が課せられるので注意が必要です。
暴排条項とは企業活動に対する暴力団等の反社会的勢力の介入をふせぐために契約書に挿入する条項をいいます。銀行、証券、建設など様々な分野における契約書には暴排条項が盛り込まれるようになっています。反社会的勢力を企業活動から排除することは社会的な要請となっているのです。
具体的には、取引先が暴力団と関係をもっていることがわかったときには催告をすることなく、契約を解除することができる、とするものとなります。
暴排条項を契約書に入れることは努力義務とされ、強制力をもつものではありません。しかし、反社会的勢力の排除が社会的な要請となっている今日、暴排条項の挿入は必須であるといってよいでしょう。
契約書には訴訟の際の管轄裁判所をどこにするのか、を事前に定めておくことが一般的です。
管轄裁判所とは、金銭消費貸借契約上でトラブルが生じ、訴訟をすることとなったときに、訴えを提起する裁判所のことです。
紛争が生じたときには裁判所で争うこととなります。その際には訴えを起こす裁判所を自由に選ぶことはできません。通常は、被告側の住所地を管轄する裁判所に訴えを起こすこととされているからです。しかし、金銭消費貸借のような財産権に関する争いの場合には、義務の履行地(返済をする場所)を管轄する裁判所に訴えを起こすことができるとされています。義務の履行地とは債権者の現在の住所です。
そのため、訴訟となったときには管轄する裁判所を被告の住所地、もしくは義務の履行地のいずれかから選ばなければなりません。しかし、双方の合意によって管轄する裁判所をどこにするのか、を事前に決めておくことができます。そこで、契約書に管轄裁判所について定めた条項を記載することで、管轄裁判所を決める手間を省くことが行われているのです。
公正証書による金銭消費貸借契約書を作成するメリットは、トラブルが生じたときに裁判所の判決を待つことなく、債権の差し押さえができることです。
公正証書による金銭消費貸借契約には通常、執行認諾文が付けられます。執行認諾文とは債務者が債務の返済ができない場合には裁判手続きを経ずに強制執行に服することを認めた文章のことです。
通常は債権者が債務者に対して、貸金の支払いを訴える訴訟を裁判所に起こす必要があります。裁判所での審理の結果、訴えが認められて初めて債務者の資産への強制執行を行い、債権の回収を図ることとなるのです。
その点、公正証書による執行認諾文付金銭消費貸借契約書では裁判手続きをスルーして、すぐに強制執行手続きを開始することができます。債権回収にかかる時間を短縮できるため、メリットは大きいといえるでしょう。
法人間の金銭消費貸借契約書の内容は、基本的に個人間のそれと同じです。しかし、債権の回収には個人間の金銭消費貸借契約よりも注意するべき点が多くなります。利息の上限や期限の利益喪失条項の挿入もれ、担保の設定のあり方などがそれにあたります。
法人間の金銭消費貸借契約書を作成する場合には、これらの点をふまえるようにしましょう。
当事務所では法人間の金銭消費貸借契約書の作成をいたします。公正証書による契約書作成にも応じております。法人間の金銭消費貸借契約書の作成の検討をされている皆様、ぜひご相談ください。
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