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遺言状を作ろうと考えている人は多いと思います。
自分がいなくなった後に残していく家族が生活に困らないようにしたい、またはお世話になった友人への気持ちを何らかの形として残したい、など動機は様々でしょう。
そのためにしてほしいことを遺言状として残すことで、民法上の制限はありますが、自分の思いを形にすることができるからです。
しかし、遺言状には注意しなければならない点があります。
遺言状には、遺留分による制限のほか、記載したとしても法律的に有効とはならない事項があり、必ずしも被相続人(遺言状を書く人)の思い通りに財産を分けることはできません。
また、遺言状には書き方が決まっていて、もしも、間違えた書き方をしてしまうと、遺言状が無効になってしまうおそれがあります。
そこで、ここでは遺言状について次のことを解説します。
遺言状の作成にあたって、ぜひ、参考にしてください。
被相続人が死亡すると、被相続人が所有していた財産は相続人の間で分割されることとなっています。
しかし、被相続人には、死亡する前に、所有する財産を遺留分による制限を除いて、民法に規定された範囲で自由に処分する権利が認められています。この内容を文書にしたものが遺言状です。
遺言状でできることは、次の通りです。
相続人に対する財産の相続分は法律で決められています。これを法定相続分と呼びます。しかし、遺言状で法定相続分を変更することができます。また、第三者に法定相続分の変更を委託することもできるのです。
たとえば、不動産を長男に、預金を長女に、といった具合に相続財産を分割する方法を遺言状で指定することができます。また、分割方法を第三者に委託することもできます。
遺言状で5年間、相続財産の分割を禁止することができます。
複数の相続人がいる場合に、ある相続人が相続した財産が、当初見込まれた金額に満たない時は、その分を他の相続人が相続割合に応じて担保しなければなりません。その割合を遺言で決めておくことができます。
遺留分減殺請求があった場合に、財産が減殺される順序を遺言によって決めておくことができます。
たとえば、長男に家と土地とを相続させる条件として、障害のある次男の面倒をみること、といった内容の遺言状を作成することができます。これを負担付遺贈と呼びます。
この場合、長男が負担付遺贈の受遺者となります。しかし、長男がこの負担付遺贈を放棄する可能性があります。その場合に取るべき対策を遺言状で指示することができます。
負担付遺贈をするための財産が減少した場合の対策の指示を遺言状に記載することができます。
推定相続人が被相続人を虐待などした場合に、被相続人はその相続人の排除を家庭裁判所に請求することができます。これを遺言によって行うことができるのです。また、排除の取り消しも遺言で行う事ができます。
遺言状に記載することで、財産を法定相続人以外の他人に贈ることができます。これを相続財産の遺贈と呼びます。
遺言状の内容を実現するための権限をもつ人を遺言執行者と呼びます。遺言状で遺言執行者を指定しておくことで、遺言状内容の実現をスムースに進行させることができるのです。また、遺言状に記載することで、遺言執行者の人選を第三者に決めてもらうことができます。
たとえば、被相続人が生前、長男に対して事業用資金として1,000万円の贈与を行っていた場合、この金員は特別受益と呼ばれます。
相続の際には、長男は相続財産の中から、生前に贈与された1,000万円を差し引いた金額を受け取ることとされています。
しかし、遺言状にそれをしなくともよい旨、記載しておけば、長男は相続財産から1,000万円を差し引かなくてもよくなります。これを特別受益の持ち戻しの免除と呼びます。
遺言状には、法的な効力はないけれども、被相続人の思いとして残しておきたい事項を記載することができます。これを付言事項と呼びます。
「遺言状でできること」で解説したこと以外の事項については、遺言状に記載したとしても法的な効力はありません。
たとえば、葬儀の方式を指定することは「遺言状でできること」に入っていないので、法的な効力がありません。相続人には遺言状記載通りの葬儀をしなければならない義務はないのです。
いうなれば、葬儀のやり方について、遺言状に記載されていたとしても、それをそのまま行うか否かは、あくまでも相続人の自由意志に委ねられているのです。
そこで、付言事項が意味をもってきます。遺言状の内容や葬儀の方法に関する思いなどを、付言事項として記載することで、相続人の気持ちに訴え、自分の思いを実現する可能性がでてくるのです。
また、遺言状の内容によっては、相続人の中には割り切れない思いを抱く人が出てくるかもしれません。そのような時に、被相続人の気持ちがわかる文章があれば、受け止め方も違ってくるのではないでしょうか。付言事項にはこのような役割が期待されているのです。
死後の事務委任契約とは付言事項に記載した思いを実現するために利用される契約のことです。付言事項に記載するのは、法的な効力のない被相続人の思いですが、それを契約という形にして実現できるようにしたのが死後の事務委任契約です。
死後の事務委任契約を利用することで、たとえば、葬儀の方法の指定やデジタル遺品の整理方法などをあらかじめ決めておくことができます。後述する遺言執行者を死後の事務委任契約の受任者とすることで遺言状とセットにして死後の事務処理を一括して行うことができるのです。
遺言状は、作成をする時の状況によって方式が異なります。具体的には次の通りです。
通常は、1の普通方式遺言の作成が行われています。そのため、この記事では普通方式遺言について解説します。
公証役場の公証人に対して遺言状の内容を口述し、それを基にして公証人が作成する遺言状です。法律のプロである公証人が作成しますので、遺言状の内容のチェックだけではなく、記載方法(日付、語句の修正等)が違うことによって遺言状が無効になるおそれがありません。
また、作成した遺言状は、自分で持つ以外に公証役場で保管されますので、万が一、自宅で遺言状が紛失しても問題ありません。
さらに公正証書遺言は、他の2種類の遺言状と異なり、遺言執行の際に家庭裁判所による検認の手続きが不要です。
被相続人(遺言状を書いた人)が死亡した後、遺言状を開封するためには、家庭裁判所によって、その遺言状が、確かに被相続人のものであることを確認する作業を行う必要があります。その作業が検認と呼ばれているのです。
自筆証書遺言、秘密証書遺言ともに、遺言状開封のためには検認をしなければなりません。これに対して公正証書遺言では検認が必要ないのです。
公正証書遺言にはこのようなメリットがあります。
しかし、その一方で、作成のためには、2名以上の立会人が必要とされており、遺言状の内容を秘密にしておくことが難しいこと。また、公証人による作成となりますので、時間と費用がかかることの2点がデメリットとしてあげられます。
自分で書く遺言状です。自分で書くものですから、費用がかかりません。また、立会人の必要がないので、遺言状の内容が他人に知られることもありません。もっとも簡便な遺言状といえます。
しかし、遺言状の本文については、すべて自筆で書く必要があるので、パソコンやワープロによる作成は認められません。また、遺言状は、書き方の形式が決まっているため、もしも、間違えた形式の遺言状を作成してしまうと、無効とされてしまうおそれがあります。さらに、遺言状を書いた人が死亡した後、遺言状の所在が不明となる可能性もあるのです。
自筆証書遺言にはこのようなデメリットがあります。
しかし、令和1年7月に施行された改正民法では、自筆証書遺言の作成方法が次のように変わりました。
自筆証書遺言の内容はすべて自分で書く必要がありますが、相続財産の目録はパソコンで作成したものでよいとされたのです。
具体的には、財産のうち、土地建物は長男に、金融資産は長女に、といった内容は自筆で書き、相続財産の目録をパソコンで作成するというものです。また、相続財産の目録を作成するにあたっての詳細な内容については、不動産登記簿や預金通帳のコピーでもよいこととなっています。
注意しなければならないのは、パソコンで作成した財産目録には、その1枚ごとに作成した被相続人の署名捺印が必要になることです。この場合に使用する印鑑についての定めはなく、遺言状本紙とは違った印鑑を使用しても差し支えありません。
なお、遺言状本紙にパソコンで作成した財産目録を添付する際の決まりはありませんが、一体性を証明するために、法務省では、ホチキスでとじ、契印を押すことを推奨しています。
自筆証書遺言と同じく、自分で遺言状を書きます。その後、遺言状を封筒に入れて封印。2人の立会人とともに公証役場に行き、公証人に遺言状の存在を認証してもらう遺言状です。この時には、公証人は遺言状の内容のチェックはしません。単に持ち込まれた遺言状があることの認証をするだけです。
そのため、遺言状の内容が他人に知られることはありません。
しかし、交渉人による遺言状のチェックがないので、記載方式の間違いによって遺言状が無効となるおそれがあります。また、公証役場に対して認証のための費用がかかります。この2点が秘密証書遺言のデメリットです。
遺言状は死亡した人が、自分の意思の実現を相続人に対して一方的に求めるものです。
そのため、その形式や有効な記載内容については民法に規定されており、このうち、形式に違反した場合には無効となってしまいます。
遺言状が無効となる可能性が高いのは、自筆証書遺言、秘密証書遺言を作成した場合です。
公正証書遺言についても、無効になる可能性がまったくない、とは言い切れません。しかし、他の形式の遺言状に比べると無効になる可能性は低くなります。
そこで、ここでは自筆証書遺言および秘密証書遺言作成時において無効となる可能性が高い点について、解説します。
自筆証書遺言では、財産目録以外の遺言状本文について、パソコンで作成したり、自分で音声を吹き込んで作成したりした遺言状は無効となります。
また、遺言状の内容を自分が読み上げて、それを他人に書いてもらった場合も無効です。
これに対して、秘密証書遺言の場合には、遺言状をパソコンで作成しても有効となります。なお、秘密証書遺言が自筆証書遺言と違っているのは、この点だけです。あとは後述する自筆証書と同じ原因によって無効となります。
自筆証書遺言では、遺言状を書いた日付が記載されていない場合は無効です。また、記載されていたとしても、たとえば、平成18年6月吉日のように日付が特定できない場合は無効とされてしまいます。
自筆証書遺言では、遺言状の最後に自分で署名押印していなければ、無効となります。
相続財産の内容は特定できることが必要です。たとえば、相続財産が不動産の場合には、土地建物の登記簿通りに記載していないと、その部分の相続については無効とされるおそれがあるのです。
民法968条2項には、遺言状に書き間違いがあった場合の修正方法について規定されています。この規定に違反した形で遺言状の間違い箇所を修正した場合には、その遺言状は無効となります。
なお、民法改正によって、財産目録についてはパソコンでの作成が認められましたが、書き間違えた部分を修正する場合は、上記と同じ方法で行わなければなりません。
被相続人が遺言状を書いた時点で認知症が疑われる状況だった場合には、その遺言状が当人の意思なのかどうかわかりません。そのため、遺言執行の際に一部の相続人から相続無効の訴えを起こされる可能性があります。結果として遺言状が無効になるおそれがあるのです。
遺言状の内容を実現するためには、なくなった被相続人に代わって、その意思を代行する人が必要です。遺言執行者とはその役割を果たす人のことをいいます。
特に相続財産が不動産や預貯金だけではなく、株や投資信託など多岐にわたる場合や、相続人の数が多い場合には遺言執行者を決めておくと、相続手続きがスムースに進みます。また、先述の死後の事務委任契約の受任者を遺言執行者と同一人としておくことで、遺言状によっては実現することができない死後の事務についての処理を進めることができます。
遺言執行者は遺言状に記載することで指定することができます。もしも、遺言状に記載された遺言執行者が就任を断った場合や、遺言状に遺言執行者の記載がない場合には、家庭裁判所に対してその選任を申し立て、決めてもらうことができます。
被相続人の配偶者、子ども、親には相続財産の一部を請求することができる権利が認められています。この権利を遺留分と呼びます。
たとえば、遺言状ですべての財産を特定の相続人Aに相続させると記載してあっても、他の遺留分をもつ相続人から異議がでれば、その遺言状の記載通りにはなりません。(これを遺留分侵害請求と呼びます)
Aは異議を申し出た相続人に対して、遺留分として認められた部分を金銭に換算して、相続財産の中から返さなければならないのです。
被相続人には遺言状で財産を自由に処分することができる権利が与えられていますが、遺留分を侵害することはできないのですね。
ただし、遺留分侵害請求の時効は1年間となっています。そのため、時効期間が過ぎるまでの間に遺留分侵害請求がない場合には、遺言状記載通りの相続が実現することとなります。
任意後見契約とは、信頼できる親族や友人などとの間で自分の判断能力が低下したときに行ってほしいことを事前に取り決めておく契約のことです。
たとえば、病院や介護施設、公共料金の支払いなどがこのなかに入ります。また、新たに介護施設などに入所する際の手続きも含まれます。
いわば、本人の身上監護を行うための財産管理を委任する人を契約によって事前に定めておくものが任意後見契約なのです。ちなみに、任意後見契約によって事務を委任される側の人を任意後見人と呼びます。
任意後見契約が効力をもつのは本人が生存中に限られます。そこで、遺言状に記載する遺言執行者と任意後見人を同一人物とすることで、万が一、本人の判断能力が低下した際にも、生存中は任意後見契約によって生活をサポートし、死後は遺言状の内容を確実に実行することができるのです。
遺言信託という言葉には、法律上の遺言信託と信託銀行が提供する商品としての遺言信託との二通りの用法があります。
信託銀行が提供する遺言信託は、遺言状の作成、保管、さらに遺言執行までの業務を一つのパッケージにした商品のことをさします。信託銀行が行うサービスであるため、相続財産の分割に関することはできますが、子どもの認知といった身分上の手続きを行うことはできません。
これに対して、法律上の遺言信託とは、信託法上の信託制度を利用した財産管理の方法を遺言状に記載することによって、たとえば、被相続人の死後、知的障害のある家族の生活を守るための仕組みを作ることをいいます。
信託制度とは、信託法に定められた財産管理に関する手法のことです。
たとえば、障害をもつ子ども乙の父親甲が、友人丙に自分の財産を預け、預けた財産を乙のために使ってもらうようにする契約を結ぶことを信託契約と呼びます。
この場合、丙が甲から預かった財産は信託財産と呼ばれ、甲と丙との間で結んだ信託契約の内容に従って、丙はその財産を管理し、乙のために利用するものとされます。
もしも、丙が信託財産を着服した場合には損害賠償責任を負います。
また、甲から管理を任せられた財産の名義人は丙となりますが、この信託財産は強制執行や差押えの対象とはなりません。そのため、もしも丙が、所有する財産を強制執行されたり、差し押さえられたりしても、甲から管理を任せられた信託財産は影響を受けず、乙の生活が脅かされることはないのです。
なお、信託法上、例としてあげた登場人物ののうち、甲は委託者、乙は受益者、丙は受託者と呼ばれます。
上記の信託制度は、委託者と受託者との間で結ばれた契約によるものです。遺言信託は、この契約を遺言状に記載することによって実現しようとするものなのです。
ただし、遺言信託の場合には、受託者の同意を得ることのない、委託者による一方的な意思表示であるため、受託者として指定された人が就任を拒否する可能性があります。そのため、遺言信託の利用にあたっては、あらかじめ、受託者に対して就任の同意を取り付けておく必要があるでしょう。
相続人が知的障害をもっている場合には、遺言状によって財産を残すだけではその相続人の保護は十分ではありません。
遺言状ができるのは、財産を残すことであって、障害をもつ相続人を監護することではないからです。
被相続人の死後、相続財産を管理し、相続人に代わって生活上の様々な手続きを行うためには、遺言状の作成とは別に、そのための態勢を整えることが必要となります。
そこで考えられるのが、成年後見制度や法律上の遺言信託の利用です。これらの制度を遺言状と併用することで、被相続人の死後も、障害をもつ相続人の暮らしを守ることができます。
遺言状の意味と種類、作成の際の注意点、さらには成年後見制度や遺言信託との併用について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
この記事のポイントは次の7点です。
遺言状には、被相続人がいなくなった後も、遺された家族を守ることができる力があります。
遺言状の作成を検討している方、ぜひ、当事務所にご相談ください。
電話やメールでのご相談は初回無料です。
相続業務のメニューは次の通りです。