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相続に関心のある方は多いようです。私が所属する行政書士会で行っている無料相談会でも、もっとも多い相談が相続に関係したものです。
具体的には、遺産の分割をめぐる相続人同士のトラブルであるとか、自分の死後、残された家族の生活が不安、といった相談が多いのですが、なかには自分の葬儀のあり方などについての相談もあります。
一口に相続の相談といっても多様な内容を含んでいるのです。
そこで、ここでは、相続の意味や具体的な手続きの進め方、さらに手続きを進めるにあたっての注意点について解説します。
相続とはなくなった人が所有していた財産を、別の人が受け継ぐことをいいます。受け継ぐ財産のことを相続財産、受け継ぐ人のことを相続人と呼びます。
ちなみに、相続財産を残してなくなった人のことは被相続人と呼ばれます。
相続人は被相続人が所有していた財産に関わる一切の権利および義務を引き継ぐこととなりますが、相続財産の中には借金も含まれるので、相続に際しては注意が必要です。
万が一、相続する財産よりも借金のほうが多い場合には、その借金を相続財産以外の自分の財産で返さなければならないからです。
また、相続人となる人は民法で規定されていて、法定相続人と呼ばれます。しかし、必ずしも法定相続人でなければ相続人にはなれないということはありません。遺言状に記載があれば、全くの赤の他人であっても相続人となることはできます。この場合の相続人は受遺者と呼ばれています。
相続には、遺言状がある場合に行われるものと、遺産分割協議によって行われるものとの2種類があります。
遺言状がある場合には、遺言状記載通りの内容で財産を分割します。
なお、遺産分割協議を行った後に遺言状が見つかった場合、基本的には遺言状の内容が優先されます。その場合、遺言状の内容に沿った形で再度、遺産の分割を行うこととなるのです。
しかし、相続人の間で遺言状記載通りの内容ではなく、すでに行った遺産分割協議の内容で良い、という合意があれば、再度の遺産分割は必要ありません。そのうえで、遺言状で遺言執行者が決められていた場合には、再度の遺産分割を行うか否かについては遺言執行者が判断することとなります。この点、注意が必要です。
遺言状がない場合には、法定相続人同士で遺産の分割について協議をすることとなります。これを遺産分割協議と呼びます。
通常は、法定相続人同士の話し合いによって遺産の分割が決まります。しかし、協議がまとまらない場合には家庭裁判所による調停や審判によって分割の内容を決めることとなります。
相続の権利をもつ人は民法に規定されています。法定相続人と遺言状で指定された人です。
法定相続人には、被相続人の配偶者、子ども、親、兄弟が含まれ、生存しているかいないかによって相続の順位が決まります。
具体的には次のようになります。
これを見てわかるように、被相続人の配偶者は常に法定相続人となり、子ども、親、兄弟は生存しているか否によって、相続人となる順位が決まるのです。
たとえば、被相続人に配偶者がいても子どもがおらず、親が存命している場合には、相続人は被相続人の配偶者と親となります。この場合には、被相続人の兄弟がいたとしても相続人にはなれません。
また、被相続人の子どもが、被相続人より先に亡くなっていて、その子ども(被相続人の孫)がいる場合には、法定相続人は被相続人の孫となります。この場合には、被相続人の親が存命していても、相続人にはなれません。
ちなみに、孫が亡くなった場合で、その孫に子どもがいた時には、その子ども(被相続人の曾孫)が相続の権利を持ちます。被相続人の直系の子どもには永久に相続権が認められているのです。これを代襲相続と呼びます。
なお、代襲相続の権利は被相続人の兄弟姉妹の子ども(被相続人の甥、姪)にもありますが、この場合には甥、姪までとされ、それ以降は認められていません。
法定相続人以外に相続の権利をもつのは、遺言状で財産を譲ると記載された人です。この人は受遺者と呼ばれます。遺言状の中では財産を「遺贈する」と記載されています。被相続人の意思によって決めることができるので、受遺者となる人に何らかの条件が必要となることはありません。
相続財産には、土地や家屋などの不動産、現金預金、有価証券、さらには家財道具といった被相続人の名義になっている財産すべてが含まれます。
同時に、被相続人が負っていた住宅や自動車などのローンといった各種負債も相続財産の対象となります。
さらに被相続人が他人の借金の連帯保証人になっていた場合には、その地位も相続することとなります。
相続というと、もらうことができる財産のことを連想することが多いのですが、場合によっては借金や連帯保証人としての責任も相続する可能性があることを知っておく必要があるでしょう。
相続する財産に借金が含まれていた場合の対処法として、次の方法があります。
財産を相続した後に、返済します。
借金が相続財産の範囲内で収まらない場合には、残った借金を相続人の資産から支払うこととなります。しかし、それを避けるために限定承認と相続放棄の2つの方法があります。
借金については、相続財産を限度として支払う、とするものです。相続財産は結果としてゼロになりますが、相続人がそれ以上の負担をすることはありません。
ただし、この方法を利用する場合には、相続人全員の同意が必要です。また、相続が開始されてから(被相続人がなくなってから)3カ月以内に手続きを行わなければなりません。
相続人の資産から被相続人の借金を支払うことが難しい場合には、相続を放棄するという方法があります。
相続を放棄してしまえば、その相続人は相続に関する一切の権利を失います。言い換えれば、初めからその相続には関係していなかったものとみなされるのです。そのため、被相続人の借金については、何らの責任を負うことがなくなります。
ただし、相続人が被相続人名義の家に住んでいた場合などは、その家から出なければなりませんし、事業を行っていた場合にはその事業を承継することもできません。
なお、相続の放棄について条件はなく、相続人1人の判断で行うことができます。たとえば、相続人が3人いた場合に、そのうちの1人が相続放棄をすることは自由です。その場合、残った2人の相続人が借金の返済にあたることとなります。
また、相続人の地位は相続人が存在しているかいないかによって、変動します。被相続人の配偶者と子ども全員が相続放棄をした場合には、相続人は被相続人の親もしくは兄弟姉妹に移ることとなり、借金もまたその相続人のもとに移行することとなります。
さらに、相続放棄の手続きは相続が始まってから3カ月以内に行わなければなりませんし、一度、相続放棄をすると撤回はできません。
注意しなければならないのは、限定承認や相続放棄の手続きを行う前に、被相続人の財産を使ってしまった場合には、その相続人は相続を承認したものとみなされることです。この場合、限定承認、相続放棄といった手続きはできなくなります。
相続手続きは、遺言状がある場合とない場合とで異なります。しかし、相続が開始した直後に行わなければならないことは同じです。すなわち、相続人と相続財産の確定です。次にくわしく解説します。
遺言状がある場合には遺留分の権利をもつ人を探す必要があります。また、遺言状がない場合には遺産分割協議を行いますが、その際には法定相続人全員が協議に参加しなければなりません。そのため、相続が開始された時点で戸籍謄本を収集して相続人全員を確定することが必用です。
遺留分とは、相続人に対して最低限残さなければならない財産の割合をいいます。被相続人が、他の相続人に対して遺留分を無視して財産を譲ろうとした場合には、遺留分の権利をもつ相続人は、侵害された遺留分について返還を求めることができます。
遺留分の権利をもつ相続人は、被相続人の配偶者と子ども、さらに親です。兄弟には遺留分はありません。
たとえば、配偶者と子どもがいる被相続人が他人に全財産を譲るとした遺言状を残しても、配偶者と子どもは自分たちの遺留分を主張して、侵害された相続財産分を取り戻すことができるのです。
相続人の確定作業と同時に相続財産がどれだけあるのかを調べる必要があります。相続財産のなかには借金や連帯保証人の地位の継承が含まれるので、綿密な調査が必要です。しかし、限定承認や相続放棄といった手続きは相続開始後3カ月以内に行う事とされていることからあまり時間をかけていられないという問題もあります。そのため、時間がない場合には弁護士や行政書士などの専門家に依頼することも一つの方法です。
以上の相続人および相続財産の確定といった2つの作業が、遺言状のあるなしに関わらず行う必要のある手続きになります。
次からは遺言状がある場合とない場合の手続きについて解説します。
封印がされている自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、遺言状を開封する前に家庭裁判所による遺言状の検認手続きを行わなければなりません。検認手続きをせずに遺言状を開封したり、遺言執行手続きを進めたりした場合には、5万円以下の過料に処せられます。
検認手続きを終えたあとに家庭裁判所から検認証明書が発行されるので、その書類を使って遺言執行手続きを行うことになります。
なお、封印がされていない自筆証書遺言であっても、検認の手続きは必要です。
公正証書遺言の場合には検認手続きをする必要はありません。
検認手続きとは、遺言状の存在を家庭裁判所が確認することで、遺言状の偽造、変造を防ぐために行われる手続きのことです。
遺言執行者は遺言状に記載されている内容を実行する権限をもった人です。他の相続人は遺言執行者が行う遺言執行手続きを妨げることはできません。
遺言執行手続きを進める前に、遺言執行者とされた人がその就任を承諾する必要があります。その際には、相続人に対して就任を承諾した旨の通知を行います。
就任した遺言執行者は遺言状に記載された内容の執行を行います。
すべてのことを遺言執行者が行わなければならないわけではありません。内容によっては遺言執行者から委任をして他人に行ってもらうこともできます。代表的なものとして、不動産の名義変更手続きを司法書士に依頼することがあげられます。
遺言状がない場合には、相続人全員による遺産分割協議を行うこととなります。一人でも協議に関われなかった相続人がいた場合には、その遺産分割協議は無効となります。
ただし、遺産分割協議は相続人全員が同じ場所で行わなければならないものではありません。場合によっては封書でのやり取りによることも可能です。
遺産分割協議がまとまったら、その結果を遺産分割協議書として書面で残します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名捺印が必要です。その際の印鑑は実印を使用します。
なお、相続人が海外に住んでいて、印鑑証明書をもっていない場合には、サイン証明を利用することとなります。サイン証明の手続きは、その相続人が住む国の日本大使館や総領事館で行います。
相続人のなかに未成年者がいる場合には、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。未成年者には遺産分割協議を行うことが法律上認められていないからです。
特別代理人には、相続の当事者でない成人であれば誰でもなることができます。相続の当事者はその未成年者と利害が衝突するので認められません。
ただし、家庭裁判所は、未成年者に不利な条件での遺産分割協議を行う者を特別代理人として選任しないこととなっています。
そのため、実務上は遺産分割協議の内容を詰めた後に特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てることが行われています。
相続人のなかに認知症の方がいる場合には、家庭裁判所に成年後見人の申し立てを行い、選任された成年後見人を代理人として遺産分割協議を行うこととなります。
その際に、相続の当事者を成年後見人とすることは避けるべきでしょう。相続の当事者同士で利害が衝突するため、遺産分割協議を進めることができないからです。
また、認知症の方がいる場合には、法定相続分による分割となる可能性が高くなります。成年後見人は家庭裁判所の監督のもとで業務を行っており、家庭裁判所は認知症の相続人に不利にならない形での遺産分割協議しか認めないからです。
遺言状がある場合には、遺産の分割については遺言状記載の内容が優先されるためこのようなことはありません。相続人のなかに未成年者がいる場合も同様です。
相続の意味や手続きについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
相続という言葉からは、思いがけない財産が手に入るといったイメージを受けますが、現実にはそのようなことばかりではありません。借金や連帯保証人の地位まで受け継ぐ可能性があるのです。また、相続の手続きも簡単ではありません。
そのため、相続について困ったときには専門家に相談することも必要ではないでしょうか。
当事務所では、皆様に寄り添い、問題解決のお手伝いをさせていただきます。
相続業務のメニューは次の通りです。