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遺産分割手続きの際、相続人のなかに認知症の方がいる場合に、金融機関などから成年後見人を選任するようにいわれた経験のある方は多いと思います。
認知症のように判断能力が低下した方には法律上の意思能力が認められていないので、このような手続きが求められているのです。
一見すると、面倒な手続きに思われます。しかし、この手続きは判断能力が低下した方の権利を守り、安心して生活してもらうために必要なものです。
この手続きを含む、判断能力が低下した人の暮らしを守る社会的仕組みを成年後見制度と呼びます。
ここでは、成年後見制度についてくわしく解説します。
判断能力が衰えてしまうと、他人に対して自分の意思を明確に伝えることが困難になります。そのため、自分ではこのように暮らしていきたいと思っていても、実際には自分の意図したものとは違った暮らしを余儀なくされることが多々あります。
たとえば、判断能力が低下しているとみなされると、銀行との取引や医療機関への受診、さらには介護福祉施設の利用ができなくなる可能性があるのです。
また、判断能力が低下したことにつけこまれて、悪質商法の被害に遭うこともあります。
そのようなことが起こらないように、本人の意思を代行する後見人を選任して、本人の身上監護のために財産の管理を行わせる制度が、成年後見制度です。
成年後見制度が目指しているものは、判断能力が低下した人であっても、その人の自立と尊厳が最大限尊重される社会です。
成年後見制度のバックボーンとなっているのはノーマライゼーションの理念です。たとえ、障がいをもつ人であっても、障がいを持たない人と同じように生活していくことができる社会環境を作ろうという理念のことをいいます。
そのうえで、成年後見制度には残存能力の活用による本人の自己決定権の尊重と、後見人に対する判断能力が低下した人の身上配慮義務が求められています。
判断能力が低下しても、本人の気持ちがなくなってしまうわけではありません。たとえ、外側からはわからなくても、本人の持つこのようにして生きていきたいという思いが消えることはありません。
そのような思いを形にしていくための制度が成年後見制度なのです。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の二つがあります。
法定後見制度とは、既に判断能力を失っている方をサポートするための制度で、サポートの内容は法律であらかじめ決められています。
任意後見制度とは、サポートを受けようとする人が、自分が元気なうちに信頼出来る人との間で、身上監護をするための財産管理の契約を結んでおき、将来、判断能力が低下した場合にその内容に則ったサポートを受けるための制度です。
法定後見制度は既に判断能力が低下してしまっている人のための制度です。
家庭裁判所に申し立てをして審判を受けることによって制度の運用が始まります。
この時に、判断能力が低下したために制度を利用する人を被後見人、被後見人のサポートをする人を後見人と呼びます。
家庭裁判所は、申し立てによって後見人を選任し、選任された後見人は家庭裁判所の監督を受けながら被後見人のサポートを行うこととなります。
サポートの内容は被後見人の身上監護を目的とした財産管理です。
法定後見制度は、利用する人の判断能力の違いによって3つの種類に分けられています。
ものごとを判断することがほとんどできない状態にある人のサポートを行うための仕組みです。
被後見人のサポートを行う人は成年後見人と呼ばれ、被後見人に代わって、日用品の購入といった日常生活に関わることを除いたすべての契約手続きを行う事ができる権限が与えられています。代表的なものとして医療機関への入院手続き、介護福祉施設への入所手続きなどがあります。
もしも、成年被後見人が成年後見人の同意を得ずに 勝手にものやサービスの購入契約をしてしまった場合には成年後見人はその契約を取り消すことができます。
このように成年被後見人の生活に関わる点について広い権限が与えられている成年後見人ですが、成年被後見人に対する医療行為の同意をすることの権限は認められていません。たとえば、成年被後見人が手術を行う際に、病院から同意を求められても成年後見人には同意することができないのです。
また、成年後見人には成年被後見人の生活を監護するために適切な財産管理を行う必要があることから、成年被後見人の銀行口座から預貯金の支出などが認められています。ただし、不動産の売却のように成年被後見人の生活に影響を与えるものについては、事前に家庭裁判所の許可を受けなければなりません。
日常生活に不安はあるけれど、ある程度の判断能力は残っている人を対象とした仕組みです。
サポートを受ける人は被保佐人、サポートを行う人を保佐人と呼びます。
保佐人は民法13条第1項に規定された法律行為、たとえば、預貯金の払い戻し、保証人になること、さらに相続の承認や放棄、家屋の改築などの法律行為について同意権、取消権が認められています。
これらの法律行為は本人の生活を左右する重要なものであり、判断能力が低下している場合に間違った判断をしてしまうと本人に酷な結果となるおそれがあります。それを避けるために保佐の制度があると考えてよいでしょう。
もしも、本人が誤った取引をしてしまった場合には、保佐人がその行為を取り消すことができるからです。同じ理由から、民法13条1項の規定以外に被保佐人が選んだ法律行為も保佐人によるサポートの対象となります。
なお、保佐人に代理権は認められていません。代理権が必要な場合には、家庭裁判所に代理権付与の申し立てを行う必要があります。
日常生活自体に問題はないけれど、家事を失敗したり、悪徳商法に騙されたりすることがしばしばあるなど、不安なことが多くなってきた人のサポートを行う仕組みです。
後見や保佐と違って、取り消すことができる行為があらかじめ法律で決まってはいません。あくまでも本人の意思を尊重したうえで、不安がある行為について後から取消ができるという制度です。
具体的には、本人がサポートを受けたい法律行為を選び、それに基づいて家庭裁判所に補助の申し立てを行います。この際には必ず本人の同意が必要です。
補助の申し立てによって選任された補助人は、家庭裁判所の監督のもとで被補助人となる本人をサポートします。その際にサポートできるのは事前に本人が家庭裁判所に申し立てた法律行為の範囲内に限られます。
注意しなければならないのは補助人には、後見や保佐で付与されていた同意権及び取消権がないことです。また、代理権もありません。そのため、必要であれば、それらの権限の付与の申し立てを行う必要があります。
法定後見制度には後見、保佐、補助の3類型がありますが、サポートを受ける本人の状態がどの類型にあてはまるのかわからないことがあります。
そのため、家庭裁判所では申し立ての際に本人の主治医による鑑定を行い、それをもとに類型を決めています。
鑑定の結果によっては当初考えていた類型とは違ったものになることもあります。
医師による鑑定の結果を家庭裁判所がどのように判断するのかが、3類型の決定のポイントとなるのです。
法定後見人には、民法847条に規定する欠格要件にあてはまらなければ誰でもなることができます。
民法847条に規定されている欠格要件
申し立て人は家庭裁判所に対して後見人の推薦を行うことができます。その際には民法847条の欠格要件に当てはまらなければ、誰を推薦しても良いわけです。しかし、家庭裁判所は本人の状況を調べ、最適とされる人を後見人とするので、必ずしも推薦した人が選任されるとは限りません。後見人の決定は家庭裁判所の権限なので、その決定には従わなければならないのです。
家庭裁判所に対して法定後見の申し立てを行うことができる人は、次の通りです。
これらのうち、市区町村長が申し立てることができるのは、本人に身寄りがない場合や親族がいても申し立てを拒否していたり、虐待をしている場合などで、特に成年後見制度の利用が必要だと判断された場合になります。
成年後見制度では、後見、保佐、補助といった3類型の後見人の監督は家庭裁判所が行います。
具体的には年に一度、後見人から状況の報告を受けることで、監督を行っているのです。しかし、これだけでは不安がある場合、家庭裁判所とは別に後見人を監督する後見監督人を選任することができます。
後見監督人の選任は本人、親族、後見人の請求もしくは家庭裁判所が職権で行うものとされています。
なお、後見監督人は必ず選任しなければならないものではありません。しかし、被後見人の保護を行うために家庭裁判所が必要と判断した場合には選任されます。家庭裁判所の判断によって職権で行うことができるため、たとえ、後見監督人の選任に親族が反対したとしても、ストップをかけることはできません。
任意後見制度とは、判断能力の低下が起きてしまった場合の自分自身の身上監護の方法と、そのための財産の使い方について、あらかじめ決めておくことが出来る制度です。
具体的には、制度の利用を希望する人(本人)と、その人を支援する人(任意後見受任者)との間で、支援の内容を記載した任意後見契約を結び、支援を必要とする事態が起きたときに、所定の手続をとることで契約が発効し、支援が開始されるというものです。
なお、任意後見契約は、公正証書による作成が義務付けられています。
任意後見制度は、既に判断能力が低下した人を保護するための法定後見制度とは異なり、本人が元気なうちにサポートの内容を決めておくことが出来ます。
さらに、支援を行う後見人も本人の判断で選ぶことが出来ます。いわば、本人の考え方を反映した支援を行うことが出来るのです。
また、本人を支援する任意後見人が行う後見業務は、家庭裁判所によって選任される任意後見監督人によって、監督されることとなっており、後見業務の安全性が担保されています。
任意後見制度で出来ることは次の通りです。
ここでいう支援の具体的な内容は、預貯金や不動産の管理、医療や介護施設の選定と契約並びに費用の支払いなどです。
制度を利用する人は、上記の事項について、自分の希望を支援内容に盛り込むことが出来ます。ただし、判断能力が低下した本人に対する直接的な介護は含まれません。
任意後見制度では、判断能力が低下したあとで、自身の身上監護とそのための財産管理を託す任意後見人を、自分の判断で選ぶことが出来ます。これが「任意後見人の指定」ということとなります。
成年後見制度の説明の中で、身上監護という言葉が何度もでてきます。これは、被後見人の生活サポートの内容を意味しています。
具体的には、医療介護機関の選定及び契約、費用の支払い、それら機関による被後見人の処遇に対する監視などが代表的なものです。もしも、被後見人の処遇に問題があるのであれば、そのことに対する改善を要求することも業務のなかに入ります。
また、それ以外にも被後見人が生活していくうえで必要な様々な手続きを行うことが身上監護の内容です。被後見人に対して直接、世話をするというものではありません。
任意後見制度を利用した支援が開始するためには、任意後見業務を託す人(この人のことを任意後見受任者と呼びます。)との間で任意後見契約を結んだ後、本人の判断能力が衰えて任意後見制度による支援が必要となった場合に、家庭裁判所に対して、任意後見監督人の選任の申し立てを行うことが必要です。
また、申し立てを行うさいに、本人が自分の意思を伝えることが出来る状態にある場合には、本人の同意が必要です。
家庭裁判所は、申し立てに基づいて、本人の状況を調査し、本人の判断能力が不十分であると判断してから、任意後見監督人を選任します。この時点で任意後見制度による支援が開始することとなります。また、この時に任意後見受任者の呼び名が任意後見人に変わります。
任意後見監督人の選任を申し立てることが出来る人は次の通りです
任意後見監督人は、任意後見制度による支援をスタートするさいに、家庭裁判所によって選任され、任意後見人の行動を監督する役割を持つ人のことです。
任意後見監督人の候補者はあらかじめ決めておくことは出来ますが、最終的な決定は家庭裁判所によってなされるため、必ずしも当初予定していた人が選ばれるとは限りません。
成年後見制度について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
高齢社会の進展に伴う判断能力の低下による生活上の不安を低減させるために、成年後見制度は不可欠なものです。
成年後見制度についての正確な知識をもつことは、私たちが安心して暮らしていくために必要なことだといえるでしょう。
相続業務のメニューは次の通りです。